映画音楽「ベルリン陥落」作品82/82a

M.ユロフスキー指揮/ベルリン・ドイツ交響楽団

1991.03.04-06 Capriccio

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何と言っても「ベルリン陥落」と言えばこれだ。この曲を初めて聴いたのが当盤だから、という個人的な思い入れなのだが、ショスタコーヴィチのひたすら格好良い戦闘的な管弦楽曲として、お気に入りの一枚だ。日本版DVDも出ているので、これは映画もぜひ観ておくべき。ベルリン市街戦だけでなく、ソ連対ドイツを網羅的に描いている。白眉は「ゼーロウ高地の強襲」か。終戦後の間もない時期にこれだけ大掛かりな映画を撮ることができるとは、恐れ入る。群衆のエキストラや建物、戦闘描写などが素晴らしく、実在の兵器が多数登場するようでマニアには伝説的な映画のようだ。ストーリーはプロパガンダ映画そのものだが、皮肉にもショスタコーヴィチの担ってきた役割を考えれば、この映画の音楽を担当するのもわかるし、そして素晴らしく消化している。格好良いのだ。現代的に言えば、ゲーム音楽のよう。アドリアーノ盤の豊かな響きと比べれば細くて薄い録音に感じるものの、各楽器の健闘は素晴らしい。スネアをはじめ打楽器は全体的に強く前面に出ており、サスペンデッドシンバルなどは実に良い仕事をしている。当盤は合唱のない管弦楽版で8曲、各タイトルもアトヴミャーン版組曲と同じだが、「82a」の表記はなく「82」。オーケストラ名表記はあくまでジャケットに従った。Deutsches Symphonie-Orchester Berlinとあるので、ベルリン放送交響楽団ではなく、ベルリン・ドイツ交響楽団と思われる。それにしても、このジャケットが当時らしらを上手くアレンジしており、すこぶる格好良い。

アドリアーノ指揮/モスクワ交響楽団

2000.03 Marco Polo

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初録音の全曲版とのこと。組曲版では聴かれなかった曲を多数聴くことができる点でも魅力的だが、濃密な響きが素晴らしく、演奏効果を生かしきった名盤とも言える。残響の短いミシミシ系の録音で、この曲の性格には非常に合っている。演奏はモスクワ交響楽団(Moscow Symphony Orchestra)とのことでそのまま記載したが、1989年に立ち上げられた民間オーケストラとのこと。私はソ連崩壊後のロシア・オケの表記は整理しきれていない(ソ連崩壊後、ドイツ統一後のソ連系オケ、ドイツ放送局オケの名称の混乱には、全世界の多くのファンが路頭に迷っていることだろう)。アレンジが異なるのがユロフスキーを聴き慣れた耳には違和感があるものの(「何と、ここはピアノか!?」等)、聴く側だとこの全曲45分は長いかもしれないが、演奏する側ならぜひ全曲だ。それにしても第15曲「ベルリン空港のスターリン」は圧倒的だな!「スタ~アリン!」で始まる合唱に感動だ!日本語オペラや日本語ミュージカルを聴くと、言葉の意味に囚われてしまって音楽が入ってこない現象が起こるが、ロシア語やドイツ語がわからないからこそ音楽の音響の一部として聴ける面白さがあるのもまた確か。それはきっと幸せなのだよね。

セレブリエール指揮/ベルギー放送交響楽団

1990 Warner

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8曲版。「82a」の表記あり。この映画音楽の最も攻撃的な面が見えており、とても刺激的な演奏である。それにしても、終曲をはじめ熱狂的な合唱は素晴らしい。1990年の録音にしては不満が残るが、濃密かつメリハリの効いたわかりやすい演奏であることは十分に伝わってくる。ショスタコーヴィチの合唱付き管弦楽曲としてもっと広く知られてほしいと思うが、プロパガンダ映画の劇伴だけに難しいか。