交響曲第8番 ハ短調 作品65

コンドラシン指揮 モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

1961 BMG

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これだ!これぞショスタコ!必聴、必携、究極の一枚である。1楽章、最初の音からすでに全てがショスタコ・サウンド。やはり、この全集を録音したときにはショスタコの生霊(まだ生きてる)が団員に取り憑き、さらに録音技師にも取り憑いたに違いない。1楽章はムラヴィンスキーを上回る凄まじく冷たい音色。録音の古さなど全く気にならない。むしろ、そのノイズも必要なものだとさえ思えてくる。重苦しい大太鼓の乾いた音色。バシャバシャとスナッピを鳴らしながらも響きのまとまったスネア、超強烈な打撃音のティンパニ、打楽器群はどれを取っても文句ない。感激の大音量と明確なリズム。スネアはロジェヴェンの上をいく燃焼度。サスペンデッド・シンバルはモスクワ・フィルにはよくあることだが、もうクレッシェンドができないというところまで早々と音量を上げ、それでも最後まで無理矢理に叩ききる。1楽章のユニゾンの部分、すなわち打楽器群が一斉にロールを繰り出すところだが、ここはもう大変なことになっている。他の録音にはない、ティンパニの超強烈なアクセントを聴くことができる。3楽章のアレグロは速くて勢いに満ちている。ゴリゴリと軋む弦楽器が面白い。ぶりぶりと唸る金管も素晴らしい。ティンパニなんだかトム・トムなんだかわからないような打撃音も良い(ムラヴィンスキー盤も同じような音を出すが、ソビエトのティンパニはよほど響かないと見える)。オケ全体もものすごい音量で鳴りまくるが、決して下品には聴こえてこない。むしろ透徹した厳粛なまでの格調高さを感じる。オール・ユニゾンの聴き応えは、もう他の演奏では決して満足できなくなる。「殺人機械的・無慈悲無感情・超強烈フォルテシモ」。気温が下がったかと思うほどの冷たい表現。そして感動的に消えゆくラスト。人間技を超えた超絶演奏である。…これは果たして、音楽なのか?私にはそれ以上のもののように聴こえる。いや、本物の音楽とはそういうものなのだろう。

ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1976.01.31 SCORA

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この曲の献呈者であるムラヴィンスキーの録音は、今のところ全部で7種類ある。47年スタジオ、60年イギリスライヴ、61年ライヴ2種、76年ライヴ、有名なフィリップス82年ライヴ、そしてDVD化されているそのリハーサル。その中で最も評価したいのがこの76年盤。まず、ライヴだというのにほとんど狂いのない完璧なアンサンブル。怖いほど殺伐としたクールな音色。やはりムラヴィンスキーはこうでなくては!同じスコラの5番と録音状態、音響が似ているのは、スコラの技術的なものだろうか。個人的には、こういう冷たい音色は大好きである。何よりムラヴィンスキーに相応しいだろう。

コンドラシン指揮 モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

1967.04.20/Live Altus

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……ぼ、茫然自失。……これはものすごい演奏だ…!発売を楽しみに待っていた甲斐があった。打楽器群の、この激しい打ち込みは何だ!? あの超絶爆演ロジェヴェン盤さえも可愛らしく聴こえてくるほどだ! スネアは上記スタジオ録音盤よりも芯のある太い音。それでドカドカ叩いている。ティンパニも、これまたソビエトらしく極めて響きの枯れたトム・トムみたいな音。ライヴゆえか、アンサンブルはやや危うくて、特に3楽章では危険なドライヴをしているが、超強力なスネアをはじめとする打楽器群によって強引に音楽は進められていく。このドライヴは、壁にぶつかろうと、対向車に激突しようと、ガードレールを突き破ろうと、そんなことはお構いなし、とにかく突き進む。崖から落っこちても水中を暴走するかのような、超過激エンジンを積んでいる。この演奏を生で聴いた人は、心臓麻痺で倒れはしなかったのか。しかしコンドラシンとてただの爆演指揮者ではない。むしろコンドラシンの真の魅力は、そういった激しさよりも、曲の内面へとストレートに切り込んでいく解剖術にあると言っても過言ではなかろう。結局のところ、私がこの盤で一番気に入ったのは5楽章である。ささやかなハッピーエンドに到達する、ね。

アシュケナージ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

1991.10 DECCA

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…アシュケナージはロシアの系譜に連なる指揮者ながら、演奏においては西側の趣がある。ここでも整然としたスタイルが逆に心地良い。コンドラシン、ロジェヴェンでは強烈過ぎる、プレヴィンでは緩すぎる、という向きにはお薦め。バランスの良い演奏。ロイヤル・フィルも指揮者によってかなり魅力の増減がある不思議なオケだが、ここでは良い方のRPO。こんな超名門オケが駅前のワゴン売りで300円!とか言われれば、そりゃ腹が立つというか、不思議なオケというか…。さて、このディスクはスネアがとても良い!3楽章終わりのソロで、ロールの頭に強烈なアクセントを放つが、個人的にはそれがかなり好き。実はこのCDが私の初8番だったので、これが普通なのだと思っていた。そのお陰で、プレヴィン盤などはもう聴けない。このディスクのもう一つの魅力は、併録曲だろう。何とも珍しい、ほとんどCDが出ていない「葬送と勝利の前奏曲~スターリングラード戦の戦死者に捧げる」と、「ノヴォロシイスクの鐘」である。

ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1982.03.28/Live Regis

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名盤と誉れ高き82年ライヴ盤。晩年の録音ということもあろうが、バリバリと炸裂させる60年ライヴ盤より品格がある。もっと真摯に曲に立ち向かった感動的な演奏である。もちろん、ムラヴィン、レニ・フィル特有の鋭さ、厳しさ、冷徹さ、といったものはいささかも衰えてはいない。むしろより洗練され、研ぎ澄まされている。現在、このライヴのリハーサルをDVDで観ることができる。張り詰めた緊張感があり、ムラヴィンスキーはかなり怖いタイプの指揮者であったことが伺える。しばらく入手困難だったが、タワーレコードの企画でPHILIPS盤が復刻。なんと1000円だ。素晴らしい。どういう事情かはわからないが、PHILIPS盤はピッチが高い(最初のCがCisに聴こえるほど)。その分、演奏時間も短くなっており、何らかのトラブルがあったのだと思われるが、一方でRussian Disc盤はそれほど違和感のないピッチであった。Regisから復刻されたのは、Russian Disc盤によるもの。演奏はもちろん同じものなのだが、これが驚くほど演奏の奥深さを感じさせるものに変化していた。ムラヴィンスキーの鋭く突き刺さるような凍てつく空気は健在だが、その先にちょっと温かみを感じる。やっぱりピッチが高いのって不自然だったんだなぁ。こっちのはすごく自然に聴こえる。その分、刺激が薄まったという方もいるかもしれないけれど。…で、2015年になって、Altusから夫人盤の登場ですよ!ムラヴィンスキーの82年盤が名盤であることには変わりないが、こうも録音の質を聴き比べると、録音なんて本当にその場の一側面を切り取ったものに過ぎないと思わされる。

コンドラシン指揮 フランス国立放送管弦楽団

1969.02.05/Live Altus

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やはりコンドラシンの振る8番は格別である!このうねるような泥臭さと強烈な推進力は全てのディスクで共通の魅力。Altusからリリースされた一連のフランス国立管との録音の中にショスタコーヴィチの8番が含まれていたことは、2015年のショスタコ関連のディスクでは最も胸躍るニュースであったことは間違いない。録音状態はそれほど良好とは思えないが、Altusの音質には信頼が置ける。モスクワ・フィルとの比較では、当然ながら当時のソビエト・オケ特有の鋭さと渇きは感じられないものの、フランス国立管の確かなアンサンブル力を聴くことができる。ライヴゆえの瑕は散見されるものの、全体的に整った輪郭であり、コンドラシンの亡命後の演奏にも通ずる魅力あふれる一枚。特に2楽章の魅力は比類ない。67年の来日ライヴで聴かれたような思わず笑ってしまうようなドキドキする興奮はないが、アンバランスなようで計算されたメリハリとスリリングなドライヴ感は素晴らしい。職人的な響きとあわせてモスクワ・フィルとの録音では聴かれなかった一面がある。

ロジェストヴェンスキー指揮 ソビエト国立文化省交響楽団

1983 BMG

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音が薄いのが気になるが、3楽章などはそれがむしろ良い味を出している。バリバリと吼える金管と、ヘッドの打撃音が強烈な皮膜系打楽器群がスゴイ!しかしスネア・ソロはオン・ビートに妙なウエイトが置かれ、どうもしっくりこない。もっと非人間的な機械的な打撃がほしいところ。ラストのティンパニは、ソビ文らしく凄まじい爆音。金管も耳障りな強烈な音色で、ロジェヴェンに期待するものはだいたい体現してくれる。1楽章などはかなりの大迫力。ロジェヴェンの11番にも通ずる「ショットガン・スネア」も健在である。アンサンブルの解れや音程の悪さは、この曲をより凶暴なものへと変えているので、意外と気にならなくなってくる。これを聴いてしまうと、他の録音、例えばショルティ盤などは整然としすぎていて物足りなくなってしまうぐらいだ。

ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1960/Live BBC LEGENDS

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乾ききったティンパニの音色と、錆び付いたかのようにガシガシ鳴る弦楽器がたまらない。ムラヴィンスキーの中でもかなり冷たい部類に属する演奏。全楽章を貫くその研ぎ澄まされた緊張感ある雰囲気は、ムラヴィンスキーならではのもの。それにしてもこのティンパニの音色、なぜこういう音になるのだろう。録音の古さのためか。インチの大きなトム・トム、あるいはティンバレスを叩いているかのような音だ。もちろん、私は大好きなのだが…。

ロジェストヴェンスキー指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

1983.10.30/Live BBC

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素晴らしい演奏であることには間違いなく、どこを取ってもその鋭い響きと密度は魅力的なのだが、これがロジェストヴェンスキーの録音だと思うと、あまりに整った演奏に、良くも悪くも期待を裏切られる。同じ1983年に録音された全集盤とは明らかに音の質が異なる。録音がどこか薄くて物足りない点と、ロンドン・フィルの煌びやかな響きがそう思わせるのかもしれない。例えばコンドラシンの全集盤の録音と比べても遜色ない切れ味で、管打のバランスやスネアのリズム感、音作りも直球で私の好みであり、本来であれば不満を感じる要素などほとんどないのだが、「ロジェヴェン」だと思って聴くから感じる物足りなさなのか。

コンドラシン指揮 モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

1969.09.29/Live PRAGA

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4種あるコンドラシンの8番だが、いずれも素晴らしい演奏だ。この盤が若干劣るとすれば、それは録音のせいかも知れない。フォルテシモの部分で音が歪んだりするのが大変惜しい。しかし、それを超えてその演奏内容が素晴らしい。この演奏は何とも室内的な響きに満ちている。乾いた音でガシガシと弦が鳴るのだが、それがとてもよくまとまっている。8番のように巨大な交響曲は、ガシャガシャとオケが大鳴りして怒涛の盛り上がりを見せたりもするが、やはりそれだけではダメだ。1楽章や4、5楽章に顕著であるが、室内アンサンブル的な響きを持ち合わせている必要がある。そうした意味で、このPRAGA盤は貴重だ。もちろん、コンドラシンとモスクワ・フィルの演奏である。3楽章の激しさは他の追随を許さない。金管と打楽器群は超強烈である。スネアのソロも素晴らしい。

カエターニ指揮 ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団

2004.10/Live ARTS

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カエターニの演奏はあまり好きなタイプではなかったのだが、HMVのユーザーレビューを見たらものすごい評判なので、慌てて注文。早速聴いてみた。確かに素晴らしい演奏。カエターニのこれまでのショスタコ録音の中では間違いなくベスト。速めのテンポ設定をしていて、5楽章なんかはだいぶ盛り上がって思わず興奮してしまうが、ライヴゆえなのか、どうにも雑。縦線のズレは結構気になる。エッジの効いていない太目の音色も、時にマイナス要素に。打楽器で言えば、スネアのロールが上手くない。タンバリンの音色は素晴らしかったが。SACDで聴くと、大太鼓やティンパニの低音がずんずんと響いて部屋を揺らすので、こういう曲こそSACDで聴くべきだなという感慨あり。それでも音質に若干不満が残るのは、管打楽器の音が遠く聴こえること。

M.ショスタコーヴィチ指揮 ロンドン交響楽団

1991.01 Collins

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ジャケット写真のマクシムがすごい…。が、演奏もそれに負けじとなかなか聴かせる。細かいところでのアンサンブルの不揃いは気になるが、何より大太鼓とティンパニが豪快に鳴らしているので、ベストCDに加えておいた。1楽章のユニゾンはコンドラシンに近い。妙にドロドロした演奏ではあるのだが、マクシム録音の中では間違いなく上位に位置するだろう。それにしても、3楽章終わりのスネア・ソロが大洪水です。

M.ショスタコーヴィチ指揮 プラハ交響楽団

2003.04.07-08/Live SUPRAPHON

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コリンズ盤も素晴らしかったが、今回のも良かった。8番の強奏部はこうしたドギツイ感じの演奏が似合うのかもしれん。反面、5楽章などは散漫になっているというか、いや、ソロの不安な感じがいかんのか。デコボコした2楽章が良かった。ショスタコのスケルツォはこうでなければ。流れるように軽く演奏されても困る。2、3楽章はどちらも好演。シンバルの裏打ちが極めて怪しいけれど。

キタエンコ指揮 ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団

2003.07/Live CAPRICCIO

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全集に先駆けて先行発売されていた8番。過不足ない出来で、これといった特徴や際立ったポイントはなくオーソドックスながら、完成度が高い。強奏部での幾分暴力的な響きも、キタエンコがソビエト指揮者の系譜に属する男なのだと実感できる。トロンボーンやチューバの響きはやはり魅力的。スネアも堅実なリズム感覚。ところで、このキタエンコ全集の録音データにはライヴと記されたものが多いが、日数はそうとう掛けているようで、厳密にはライヴ録音というよりは、ライヴの録音をベースにした編集ということだろう。

スラットキン指揮 セントルイス交響楽団

1988.12.28 RCA/BMG

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ロシア・ソビエトのオケとはまた違う響きで、ギンギンと鳴る。細かな部分も実に丁寧に作られていて、間違いなく名演の一枚に数えられる。セントルイス響の技術の高さも改めて実感できる。スネアをはじめ、打楽器はもう少し鳴らしてほしいところではあるが…。