交響曲第10番 ホ短調 作品93

N.ヤルヴィ指揮 スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

1988.05.12 CHANDOS

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クールで機能的な演奏。内面の狂喜を描写しつつも、俯瞰した機能性と客観性が心地良い1枚。ショスタコーヴィチに求める「内面的に緻密な暗さを伴った響き」は感情的になりがちだが、荒れ狂うスコアを見事に俯瞰してみせたこのディスクには、爽快感さえ感じる。2楽章のスネアは、その迷いなきストレートな表現に快感を得る。鋭く突き刺さるような音で4分3秒の疾風。この曲においてはスネアが極めて大事な位置を占めているが、ソロの連続で16分音符の連打。微妙なテンポの狂いが命取りとなり、どうもしっくりこない演奏が多い中で、余計なアクセントでごまかすこともなく、スコティッシュ管のスネアは硬質な音で一瞬の乱れもなく抜群のテンポ感で叩き切る。凄まじい音量で。しかし、それでもオケとのバランスが崩れているわけではない。そこがヤルヴィの素晴らしいところだ。きちんと統率が取れている。強烈な金管も魅力。最後の一音の後の余韻は鳥肌が立つ。他の楽章においてもホルンの強奏が心地良く鳴り響く。打楽器奏者出身の指揮者ゆえなのか、圧倒的に打楽器びいきの演奏に、私は当盤をベストとしたい。

ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1976.03.03/Live Victor

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なんと深い闇を感じる演奏であることか!現在4種聴くことができるムラヴィンスキーの10番の中で、最もシリアスでダークな1枚と思える。こうした暗黒の恐怖感覚と、寒気を感じるほどにほとばしる冷気は、ムラヴィンスキーならではの卓越した音色。ムラヴィンスキーの演奏は理知的なもので、いわゆるロシア系指揮者の聴かせる「爆演」とは遠いものだが、このディスクでは4楽章の最強音では、凄まじい爆発力を見せる。DSCHの叫びは圧巻。その後に訪れるピアニシモの繊細さは格別だが、こうしたダイナミクス・レンジのコントロールと、計算された「爆発」にはよほどの技術と精神的な鍛錬が必要であろう。録音状態は旧盤よりはだいぶ良いものの、やはり不満が残る。

カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1969.05.29/Live Ars Nova

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10番は帝王カラヤンが唯一取り上げたショスタコ曲でもあり、録音は現在4種聴くことができる。これはカラヤンのモスクワ・ライヴのときのもので、会場にはショスタコーヴィチ自身もいたようだ(写真も残っている)。当時のベルリン・フィルは、荒々しいまでの推進力に満ちた演奏を聴かせていた。この録音も例に漏れず、凶暴とさえ言える。しかし、同時に緻密さも兼ね備えている。10番を「数学だ」と言った『雪解け』のセリフはよく引用されるが、まさにそのイメージに近い。重要なスネアは、非常にクリアで突き抜けた音色。大胆な音量設定だが、丁寧でゆとりのある演奏には、安定した技術を感じさせる。81年DG盤でも同様にハイ・ピッチのカンカン鳴るスネアを使っており、そちらも非常に気持ちいい。

テミルカーノフ指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1973.01.26 Russian Disc

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テミルカーノフを見直すことになった1枚。ムラヴィンスキー時代のレニングラード・フィルと比較され、(オーケストラのメンバー交代などもあったのだろうが)あまりに異なるサウンドに違和感を覚えたものだが、当盤を聴けば分かる。さすがに一流である。70年代にテミルカが振ったレニングラード・フィルは二軍だったということだが(その後の、いわゆるサンクトペテルブルク響)、素晴らしい音色を引き出し、オケの能力を高めている。奇をてらったような表現もなく真面目にスコアに取り組んでいる。ガツガツ鳴るスネアも、切れのある弦楽器も素晴らしい。やや細いながらも密度の濃い木管楽器も充実している。4楽章、ラストの勢いには興奮せずにはいられない。

ハイティンク指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

1986.08.28/Live LPO

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………す、すごいぞ!ハイティンクのショスタコーヴィチには、透徹した真摯な攻撃性、冷たさがあるが(しかも、ムラヴィンスキーとは違う)、この一糸乱れぬ狂気的な進撃の原動力はどこにあるのか。ハイティンクの10番は全集盤、コンセルトヘボウのライヴ盤に続く3種目だが、やはりロンドン・フィルのこの真っ直ぐな推進力とスピード感には惚れ直すわい。ハイティンクの録音の中でも個人的には最も好きだし評価したい。こうした機能性と安定した技量を十分に楽しめる録音ながら、ドキドキハラハラと興奮する。スコアの力もあるだろうが、やはりハイティンクの音楽の構築には好感を抱く。このスピード感、突進力、比類ない。4番の再録音もとんでもない迫力だったし、やはりハイティンクは格好良い。録音については86年のライヴにつき、不満は残る。音の分離が不十分で、せっかくの強烈な音色が、突き抜けて届いてこない。

カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

1981.02 Deutsche Grammophon

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さすがに別格と言えるような風格と威厳に満ちた演奏である。ライヴ盤で聴かれたような恐ろしいまでの迫力と緊張感は感じられないが、圧倒的な技巧は名人芸のごとき見事さで、ほとんど完璧と言っていい。有無を言わさぬ説得力と洗練された響きは、ショスタコーヴィチのスコアのイメージそのものであり、カラヤンがこの曲しか振っていないにも関わらず重要なショスタコ指揮者の一人であることを否が応にも認めざるを得ないディスクである。ちなみに、私にとっては10番の初ディスクであり、幸福な出会いであった。これにより私は、カンカンとハイピッチで鳴るスネアにすっかり魅了され、当時所属していた高校の吹奏楽部においては常にスネアのピッチが極めて高くチューニングされた。高校3年生の冬には、年末年始にせっせとアルバイトし、普通の曲では使えもしない3インチの極薄スネアを購入した。未だにこの魅力に囚われている。全てはカラヤンのせいである。

ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1976.03.31/Live MASTER TONE

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31日盤ならば、ビクターの選集盤よりもマスター盤を推す。リマスタの質には賛否あるかもしれないが、ビクター盤の凸凹した録音よりは遥かに聴きやすい。演奏に関しては3日盤と解釈は変わらないだろうが、細部の完成度が一歩劣る。しかしそれでもさすがにムラヴィンスキーの振るショスタコーヴィチ。その冷徹な視点はサディスティックでもあり、また聴き手としてはそうした音の攻撃に酔いしれたいマゾヒズムを感じさせる。重要なスネアは、3日盤よりも随所で攻撃的に聴かせる。

ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

1955.06.03 GPR

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張り詰めた雰囲気が伝わってくる。一音一音がずっしりと響き、とても重い。そしてその全てに緊張感が宿っている。1楽章、最初の一音から聴き手を集中させる深みある演奏。スネアに関して言えば、スナッピーが入っていないのかと思えるほど響かない。しかし、音そのものはかなり叩き込んでいる強烈なもの。マイクが遠いのか、うまく収録できなかったのだろう、かなり遠くに聴こえる。凄惨なまでのオケのパワーが強烈で、2楽章は3分48秒の猛烈スピード。超リマスタ技術が開発されるのを待ちたい。いやほんとに。さすれば、再評価できるかもしれない。

コンドラシン指揮 モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団

1973 BMG

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強烈な打撃音がコンドラシンらしいが、全体的にこもったような録音の悪さが痛い。フォルテピアノの聞きにくさは残念としか言いようがない。コンドラシンらしいパリッとした推進力を感じるものの、録音のせいで足を引っ張っている。

ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

1954 CBS

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録音の悪さが悔やまれるが、恐怖感漂う暗黒の音色には鳥肌が立つ。全曲を通して緊張感に満ちており、ミトロプーロスもまたショスタコ指揮者の一人であったと確信できる。洗練される前のニューヨーク・フィルの無骨な音も素晴らしい。強烈な一枚。録音の悪さからくるものだろうが、シンバルや銅鑼の余韻がぐわんぐわんとビブラートし、何が起こったのかとびっくりする…。

スクロヴァチェフスキ指揮 ハレ管弦楽団

1990.11.23-24 HALLE

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残響の長い録音が奥行きを与えているが、録音のみならず演奏そのものの充実度も極めて高い。密度の濃い音色はハレ管ならではの充実感を感じさせる。打楽器は決して爆発させたりはせず、ゆとりのある響きで十分に鳴らしている。特筆すべきは3楽章で聴かれるようなピアニシモのシンバルで、弱音ならがもシンバル全体がすみずみまで綺麗に鳴りきった名演である。ハレ管の自主制作盤としてリマスタが出ているので、ジャケット写真はそちらを掲載。

ハイティンク指揮 コンセルトヘボウ管弦楽団

1985.12.08/Live Q Disc

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ライヴならではの傷だらけの演奏だが、聴いている方が怖くなってしまうような緊張感、冷酷な音色はムラヴィンスキーに通ずるもの。ハイティンクがこうした音を出すとは思いもしなかった。全集の落ち着いた演奏とは似ても似つかない、暴力的とも言える演奏。2楽章のような分かりやすい暴力性は当然だが、3楽章の不気味さや4楽章の狂気的な明るさも十分に表現した、ハイティンク・ライヴの魅力がぎっしり詰まった貴重な録音。ちなみにこのBOXに収録されたハイティンクのライヴ演奏(14枚組)はいずれも素晴らしく、ファンならずとも一度は聴いておきたい。

バルシャイ指揮 ケルンWDR交響楽団

1996.10 Brilliant

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テンポは遅めなのだが、強力な推進力を持つ骨太でしっかりとしたぶ厚い演奏。曲の持つ暗さや恐怖感をよく表現している。ブリリアントのバルシャイ全集の中ではこの10番が白眉。巨匠然としてどっかりと腰が座り、幾分丸くなった印象のあるバルシャイだが、この演奏は良い意味でその力が発揮されている。スネアは非常に硬質な音色。いささかも気を抜けぬ素晴らしい緊張感を持っている。

アシュケナージ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

1990.09 DECCA

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アシュケナージ盤は、全体的に見ると平凡な演奏かもしれない。堅実に仕上げている印象がある。しかしながら、均整の取れた演奏はこの曲にまた別の魅力をもたらしてくれる。

 

スラットキン指揮 セントルイス交響楽団

1987.02.08・10 RCA

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スラットキンの丁寧な音作りは、決して平凡というものでもなく、オーケストレーションの妙を楽しませてくれると共に、洗練されたスラットキン・ショスタコを説得力あるかたちで提示している。ただ、やはりこのコンビの4番で聴かれたような完成度には及ばない。曲との相性のためか。もう一歩、張り詰めた緊張感がほしいところ。

ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

1955.10.01-02/Live URANIA

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おそらく2楽章は最速の演奏。驚くなかれ、たったの3分35秒で走りきるのだ。これはすごい。速けりゃいいってものじゃあないが、確かにショスタコーヴィチはある速さを超えたときに何か別の魅力が湧き出てくる。しかし、いくらなんでもこれは速過ぎる。すごいことになっとる。驚異的なまでの盛り上がりがあるが、同時に録音の古さも相まって、若干軽い印象もある。ガツガツと挑戦的なオーケストラには脱帽するが。

チェクナヴォリアン指揮 ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団

1977 BMG

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チェクナヴォリアンのディスクはハチャトゥリアンでいくつかの名演が知られているが、好みから言えばもう少し巧緻性と客観性がほしいところで、オケの技量も含めて今ひとつという印象だったが、当盤はサウンドの素晴らしさを推薦したい。引き締まった演奏で、ずしずしと前進していく推進力にはとても惹かれる。

スヴェトラーノフ指揮 ソビエト国立交響楽団

1966.03.25/Live SCORA

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スヴェトラーノフらしい厚みのある響きが魅力的。ただし、録音の悪さがその魅力を削いでいるのは非情に残念なこと。10番のスピード感や緻密な構成は、いわゆる爆演型の演奏では成功例がないように思えるが、スヴェトラーノフの丁寧な音作りや響きの濃さは堪能できる。

ショスタコーヴィチ(Pf) ヴァインベルク(Pf)

1954.02.15 YEDANG

(番外編)

作曲家とヴァインベルクによるピアノ版。ピアノ協奏曲のカデンツァなどで聴かれるショスタコーヴィチ独特の駆け込むようなせっかちなタッチが健在で、思わずホロリとさせられるのは作曲者自身をその演奏に感じるからなのだが、何より素晴らしいのは、オーケストラに比べて音の少ないピアノで、ここまで深い闇を表現しているということだ。まるで100人のオーケストラが作り出すような圧倒的な音のうねりと、ショスタコーヴィチの交響曲の底流に流れる冷たく凶暴な響き、それが全て表れていると感じる。作曲者自身の演奏なのだから、それが最も「ショスタコらしい」というのは当然なのだろうが、ここにミーチャの卓抜したセンス、才能を感じ取ることができる。ロジェストヴェンスキーのビクターの全集に収録されていた録音であるが、YEDANGから単独で再発。ジャケットのドミトリーが何だか可愛らしい。ベスト・ジャケットの一つと言えるだろう。